11.11.22
控え室の一室…

「どうした!?顔色悪いぞ」
仕事に入ってしまえば取る筈の無い仮面を脱ぎしゃがみこんだ
可愛い後輩の顔色の悪さに卯佐美は駆け寄るとその肩を優しく摩る。
「アクション失敗してどこか捻ったか?」
ふる、と首を動かしてぽつりと何か呟いた。
「ん?」
「……暫くしたら、大丈夫…なんで、放っといて下さい…」
「怪我なら病院行かないと駄目だろう」
「ぁの…ぇ……と」
何か言い難そうに口篭る竜介の気持ちを知ってか知らないでか
卯佐美は引き下がりそうに無い。
開会式も近い時間だ。不毛な問答を続けている場合でもない…
「ふざけて…ちんちん殴られた…だけなんで…」
「……ぁ、ごめん」
微かに上ずった卯佐美の声色に、もう少し言い方があったろうに…と自分に
情けなくもなったが下半身の違和感に上手く回る思考力もなかった。

11.11.23
どれくらい経ったのだろう?
竜介にとっては長く、長く感じられた時間。
痛みと寒気は引いたが変わりに訪れたもう一つの立てない理由
「…まだ、辛いか?」
「ぁ、や もう痛くないので…卯佐美さん、仕事」
「竜介」
言いかけて遮られた竜介は思わず目の前で膝を付く男を見た。
「…はい…?」
「勃起っちゃった?」
にやりと艶めいた表情で覗き込まれて鼓動が跳ね上がる。
何でそんなに嬉しそうなのか?
「ッ!?!?!?」
パニック寸前の竜介に追い討ちを掛ける様に続いた卯佐美の言葉は
信じられないものだった。
「俺がして上げようか?」
「けけけ結構ですっっ そのうち落ち着きますからっ 」
「時間も無いし、出しちゃった方が早いよ、ね」
「ううううう卯佐美さん意味がっわかんないですっっ」
混乱状態の竜介の耳元へ唇を寄せて宥める様な囁き
「誰にも言わないから、大丈夫。ほら、竜介はもうフル装備だから…
 俺が手を貸そうかって話し」
「いえいえそんな申し訳な」
「…おいで。他人にしてもらう方が早いよ。取り敢えずトイレ行こう」
寧ろ強引に両肩を抱かれる格好で控え室から連れ出された。


このフロアで人の出入りが殆ど無いトイレを選択したのは偶然か、それとも…
「ここ、手置いて。」
なぜこんな展開に…?
竜介は言葉も出せずに貯水タンクの上に手を置いた。


11.11.26
「竜介は体側が軽装備だね」
まるで日常会話をする様にベルトを外し、迷いも無く
自分を脱がせていく卯佐美に恐怖すら感じる。
「ぅあ!?」
ひやり、と外気に晒されたソレにゆるりと巻きついた男らしい長い指
「…自分でするときは、どんなふうに触ってるの?」
背後から耳の裏に唇を寄せ低く甘く、口説くような囁きに竜介は背筋が
粟立った。
元々性に関して淡白な竜介はまだ他人との経験も無く
どうこうされることが好み、等と言えるはずも無い。
「時間も無いし…抜いてあげるだけだから、怖くないよ」
普段からゆったりとした喋り方の卯佐美。
何事もそつがなく、憧れの先輩
まさかこんな世話を焼いてもらう事になるとは…
思考とは裏腹に、他人に与えられる刺激に熱くなる下半身は熱の捌け口を
探して慌ただしい。
「ッ   ぅさ、み さ…手、  っん」
「 可愛いね」
「!?
「竜介は先っぽ好きなんだ?」
好き?わからない
ただ、卯佐美の与えてくる刺激はあまりにも悦楽に直結過ぎて
竜介を押し流していく。
呼吸が短く、断続的になり到着点は近いのだと判ると大きな左手が
竜介の口元を覆った。
「大きな声、出ちゃいそうだから…ごめんね?」
その言葉も煽る要素のひとつ。
絡みつく指は的確に開放へと導いてくれる
「ッん、  
んッ!!  ッ、ぅ… …ふ…
びくびくと震えて崩れそうな竜介を抱き寄せ支えた少し大きな身体。


後始末を終えて小休止中も耳まで赤くして俯く可愛い後輩は蚊の鳴く声で
「お世話になりました」
ぽつりと呟いた。

11.11.30
同時刻。
グラウンドを見渡した西方は微かな違和感を覚えた
(…そうか、こんな時間なのに仲汰がいないんだ)
卯佐美かと思っていたその姿も巨吾で
(何かイベントの準備でもあったかな?)
そんな事も考えたがスケジュールは頭に叩き込んでいるから
試合開始になるまでは裏でのファンサービスもない…
ぼんやりと思考を巡らせていると遠くから巨吾の”合図”があった。
それに答えて連続バク転でお互いの距離を詰め、ハイタッチ
その瞬間に巨吾に声を掛けてみる
「珍しく、中汰がみえない。どこに行ったか知ってるか?」
「竜介くん?…ぁー、ベンチで選手と戯れてたけど…
 なんか、具合悪そうにバックに下がる姿見た気がする」
「まだ戻ってないだけ、か?俺、様子見に少し下がるわ」
「え!?ぼちぼち時間ですよ!?」
「だから、だろう?大体、卯佐美も居ないじゃないか?」
「兄貴はダメですよ;これだけメンバーいるフリーの時はこんなモンです;」
「ついでに叩き出して来るよ、じゃ!」
フル装備時の動きで颯爽と走りながらサービスのアクションをこなして
悠々と下がった西方。
その姿を見送りながら巨吾は今度は自分に”合図”を送る寅乃に答えた。

11.12.05
椅子代わりにカバーを下ろした便座に座らせてその前で
視線を同じ高さに合わせた卯佐美がゆっくりと問う
「…どう?立てそうかな?」
柔らかな口調で、竜介の両手をふわりと握ってくる大きな手
「は  ぃ……」
羞恥心から視線を合わせられないらしい可愛い後輩は俯いたまま頷く
「じゃぁ、行こうか」
そのまま手を引いて出入り扉を押そうとしたところで
その扉は外からの力で開いた。
「ぁ、もうヤバイ?」
「…いや、でも早く表に来いよ、卯佐美」
鉢合わせた西方は低く言い放つ
控え室に姿が無かった竜介を心配して手洗いへ様子を見に来たが
まさか卯佐美が一緒だとは考えていなかった。
加えて竜介の様子で一気に血が沸く感覚に囚われる
「中汰…大丈夫か?」
深い意味も込めて出来るだけ優しく声を掛けてみたが竜介は頷くだけだった。
「控えに戻ってきて、立てない様だったから俺が手貸しただけだよ」
言いながら握った竜介の左手を引いてその場を後にする。
竜介の気持ちを考えるとこの場でこれ以上突っ込めない。
卯佐美への苛立ち、得体の知れない不安感が収まらない状態で西方は
仕方なく口を噤んだ。

11.12.11
「まぁ、顔は隠れてるから大丈夫だよ、はい、いってらっしゃい!」
竜介の背中をぽんと叩いて送り出す卯佐美は西方を控え室に残らせる為に
わざと一言付け加えた。
「西方は俺の装備つけるの手伝ってくれるんだろう?」
「…ああ」
意図を察して低く答える西方と意味あり気な笑顔の卯佐美に頭を下げて
竜介はグラウンドへ急いだ。



竜介が立ち去ったと同時に胸倉を掴まれた卯佐美はそれでも怯む事は無く
「顔、見えないから殴るのか?」
静かに挑発めいた言葉を吐いた。
「遊ぶなよッ…っ…中汰がかわいそうだろ…」
舌打ちにも近い溜息が西方の怒りを表していた。
「…それとも…鞍替え…なのか…?」
専門学校で妹と知り合ったと言っていた寅乃は卯佐美と俺が高校時代から
付き合いがある事を知っていて、卯佐美について色々相談をされた。
「何なんだよ…アンタ…寅乃が好きなんじゃないのかよ…」
独り言のように呟く西方の、すっかり力の抜けた拳を解くと卯佐美は
珍しく真摯な声色で言う
「西方、お前…竜介の事好きなのか?」

11.12.29
「・・・…それは無いか。」
「……っ」
「どうせ『犯罪だぞ!ふざけるな!』って意味だろ?
 お前も竜介可愛がってるもんな」
真意の悟り難いいつもの調子で続けた卯佐美の言葉に
言い返すことも出来ないくらい頭の中が混乱している西片を置いて
素早く装備を整え移動を促す。
「ほら、何ぼーっとしてるんだ?行くぞ」
「っ、偉そうに…大体、もとはアンタが原因だろう!」
「そうか?」
他人の怒りをひらり、ひらりと受け流すこの男に腹を立てるだけ無駄な事
怪我が職業の生命線を切るかもしれないことを思うと
心の戸惑いは致命的だ。
―――――今は考える事を止めた。